第22回   2008.Sep.04.    金子信造

6.類としての人の身体運動(一般的日常動作)

  A.ヒトの運動前史

脊椎動物は細長い形で、その中に背骨がいくつも並んで背柱をつくって前後にはしり、その下に消化管がはしって前方が口、腹側の出口が肛門である。

 体は細胞からなるが、細胞のつくった組織がいくつも集まって体節をつくり、前後に連なる。これら全てをコントロールするのが中央の神経管で、各体節の神経が、体を前後にはしる神経管一本につながって、それぞれの体節が協調できる。

 およそ6500年前の古第三紀は哺乳類、霊長類の繁栄の時代である。サル類の祖形に当たる食虫類の体は今のハツカネズミくらいである。食虫類や霊長類をまとめて真獣類といっており、その出現は一億年ぐらい前の白亜紀の中ごろであって、真獣類の出現までの哺乳類を初期哺乳類または中生代哺乳類と呼ぶ、この代表的なものがモルガヌドンで体長(鼻の先から尾の付け根まで)10センチぐらい体重は2030グラムであった。初期哺乳類が棲んでいたのは熱帯降雨林で、大木が折り重なって倒れ、平坦なところはそうないので、倒木をよじ登ったり、立木に登ったりして動く、カギ爪をつかって躯幹部を立てての登攀動作が、第三紀になって霊長類が森林に適応するロコモーションのもとになったといわれ、彼らは樹上、地上のどちらもできるロコモーションの型をもっていたと考えられる。そしてその中の一つの種が新第三紀の終わりごろに誕生した人類である。

  B.ヒトの運動

    @上肢

 ヒトの体は扁平で両肩から横に腕が出て、腕は左右に開くことができ、木を抱えて登攀でき、肩をグルグル回せる。指、手首、腕の各関節は内側に折り曲げることができる。爪はカギ爪から平爪に進化し、指は5本で拇指対向し枝さきなどを掴めるし、指先で物をつまめる。手首、肘とも回外、回内動作ができる。哺乳類で肩関節を回せるのはヒトとサルと蝙蝠だけである。馬や犬の前足は左右に開くことさえできない。彼らはヒトが背と胸の厚みより両脇の幅が広く扁平で腕が横についているのに対し、両脇の幅より背と胸の厚みが大きく、前肢は胸にほぼ垂直に出て肩をまわすことなどできない。手首、肘を回せるのはヒトとサルだけである。犬や猫の前足では指を開いて握ることも、手首、肘もまわせずヒトが鍵穴にカギを差し込んで回すような動きはできない。指紋がありその鋭敏な触覚は、感覚器として手は脳の主張所ともいわれる。上肢に限らず自分の身体各部位の位置や姿勢を知るために視認する必要はなく、「方向感覚」「身体運動感覚」「平衡感覚」などひろく「身体感覚」とよぶ諸感覚によって知られる。

 上肢が前進運動器でなくなっていることは、歩くときに、腕組みしてようが、両手をズボンの両サイドのポケットにつっこんでいようが、後ろ手に組んでいようが振る必要さえなく、あるいは腕がなくとも歩けることでわかる。手は環境作働器なのである。

(以上は障害がなければヒトであれば備わっている上肢における運動機能である。このヒトが獲得した機能を、うまく使いこなせるようにしたい。そこで、 つづいて下肢、胴体について同様にヒトが獲得した機能のあらましを確認し、その後にそれに基づいて、使えるべき機能が使えないでいるのは何故か、どうしたら使えるかを考え、どのように再帰的運動がなされてきたか、あるいは工夫されてきたか、どう考えられるかを述べてゆく。)

 

実技演習

片手胸取各種

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